お好きな本をどうぞ
本屋をしているので、アルバイト採用の面接をすることがよくある。
で、その際必ずする質問が
「好きな本は何ですか?」
正直言って、この質問の答えはあまり合否には影響しない。
ほとんど個人的な趣味で訊いている。
知らない作者名が出てきたらチェックしとくか、ぐらいの気持ちで訊く。
安時給重労働の本屋にアルバイトをしにくるぐらいだから「本はまったく読みません!」という人はさすがにいない、かというとそうでもない。
「雑誌ぐらいしか読みません」という人もけっこういる。
それはそれでかまわない。
「ふーん」としか思わない。
「東野圭吾と伊坂幸太郎です。あと最近では『のぼうの城』がおもしろかったですね」
と言われても、同じく「ふーん」である。
みんな読んでるし、誰が読んでもそこそこ楽しめるはずだから、その答えから回答者の人となりは見えてこない。
同様に、「好きな漫画は『One Piece』です」と言われても「ふーん」である。
プラスにもマイナスにもならない、無難な答えだ。
合否にはほとんど影響しないと上に書いたが、実は影響するケースもある。
こないだ面接した子は
「小説が好きなんです!」と息巻いていたので「ほう。どんな小説がお好きですか?」とたずねると、
「『バトル・ロワイヤル』、『ハリー・ポッター』、それから『ダレン・シャン』です!」
という答えが返ってきた。
それは小説じゃなくて児童文学(または中学生文学)だよ、と心の中でつっこみながら履歴書に架空の「不採用」印を押した。
以前に「山田悠介先生の『リアル鬼ごっこ』が好きです!」と言っていた三十代女性を、人手が足りないからと採用したところやっぱり不出来だったので、それ以来そのへんの本を好みとして挙げる人は採用しないことにしている。
「『赤川次郎』です」という答えも、かぎりなく×に近い▲だ。
仮にも中学生文学を売って飯を食っている手前、『バトル・ロワイヤル』や『リアル鬼ごっこ』を不当に低く見ているわけではなく(“正当に”低く見ているのだ)、要は想像力の問題なのだ。
『リアル鬼ごっこ』を好きなことが悪いのではなく、それを己の嗜好として初対面の人間に見せつけることが問題なのである。
「大の大人が『リアル鬼ごっこ』を好きですと言ったとき、相手にどう思われるだろうか?」という自問をすれば、普通の人間は(たとえ好きだったとしても)「『リアル鬼ごっこ』が好きです」とは言えないはずだ。
「『リアル鬼ごっこ』がおもしろかったけどそう言うと子どもっぽいと思われるよなあ。ここは無難に、数年前に一度読んだだけの『司馬遼太郎』って言っておくか」という判断を働かすのが、大人である。
自分の発言・行動がどのような影響を及ぼすかを考えて行動しない人間は客商売に向いていない。だから採用しない。
(もし自問した末に言ったのだとしたら、常識が欠如していることになる。それはそれで仕事に向いていない)
どういう答えを示せばプラス評価になるのかというと、これは難しい。
強いて言うなら、担当者の好みと一致する答えだけだろう。これは答えがマニアックであればあるほどポイントが高い。
「古いんですけど……。大西巨人先生の作品はすべて読んでます」
「えぇ! ホントに!? すげー、大西巨人を好きな人、おれ以外ではじめて会ったよ」
「お好きなんですか? わあ、うれしいなあ」
「最近は古本屋にもなかなかなくてねえ」
「わかります。ぼく、源氏鶏太も好きなんですけど、なかなか手に入らなくて……」
「うそ!? 源氏鶏太も好きなの!? おれ全部持ってるから今度貸すよ!!」
こんなやりとりになれば採用される可能性も上がるだろうが、こんな奇跡はまず期待できない。「誰それ?」で終わりである。
下手をしたら、とりかえしのつかないダメージをこうむる可能性もある。
「好きな本ですか? 『ドグラ・マグラ』です」
なんてことを言ったら、
「『ドグラ・マグラ』を好きなのか。こいつぜったいヤバイやつだ」
と思われてしまう可能性も十二分にある。
なにしろ日本三大奇書の一だ。どんな考えを持っているかわかったものではない。
「『リアル鬼ごっこ』を好きです」のほうが、嗜好が中学生的ということが想像できるだけマシかもしれない。
マニアックな本も回答としてはふさわしくない。
ヘンに見栄を張って
「カントの『道徳形而上学原論』です」
なんて答えもやめておいたほうがいい。
「けっ、インテリ様が。ここはあなた様みたいな秀才くんが来るとこじゃねえよ」と思われるならまだいい方で、下手をしたらそこから3時間カントトークということもありえる。
だったらどんな答えがベストなのか。
結局のところ
「東野圭吾ですね。ガリレオシリーズとか」
ぐらいがいちばんいい。
つまんない結論だけどしょうがない。
そんなとこでポイント稼ごうなんて思っちゃいかん。
どうせ面接する側はほとんど「週何回入れるか」しか見てないんだから。
で、その際必ずする質問が
「好きな本は何ですか?」
正直言って、この質問の答えはあまり合否には影響しない。
ほとんど個人的な趣味で訊いている。
知らない作者名が出てきたらチェックしとくか、ぐらいの気持ちで訊く。
安時給重労働の本屋にアルバイトをしにくるぐらいだから「本はまったく読みません!」という人はさすがにいない、かというとそうでもない。
「雑誌ぐらいしか読みません」という人もけっこういる。
それはそれでかまわない。
「ふーん」としか思わない。
「東野圭吾と伊坂幸太郎です。あと最近では『のぼうの城』がおもしろかったですね」
と言われても、同じく「ふーん」である。
みんな読んでるし、誰が読んでもそこそこ楽しめるはずだから、その答えから回答者の人となりは見えてこない。
同様に、「好きな漫画は『One Piece』です」と言われても「ふーん」である。
プラスにもマイナスにもならない、無難な答えだ。
合否にはほとんど影響しないと上に書いたが、実は影響するケースもある。
こないだ面接した子は
「小説が好きなんです!」と息巻いていたので「ほう。どんな小説がお好きですか?」とたずねると、
「『バトル・ロワイヤル』、『ハリー・ポッター』、それから『ダレン・シャン』です!」
という答えが返ってきた。
それは小説じゃなくて児童文学(または中学生文学)だよ、と心の中でつっこみながら履歴書に架空の「不採用」印を押した。
以前に「山田悠介先生の『リアル鬼ごっこ』が好きです!」と言っていた三十代女性を、人手が足りないからと採用したところやっぱり不出来だったので、それ以来そのへんの本を好みとして挙げる人は採用しないことにしている。
「『赤川次郎』です」という答えも、かぎりなく×に近い▲だ。
仮にも中学生文学を売って飯を食っている手前、『バトル・ロワイヤル』や『リアル鬼ごっこ』を不当に低く見ているわけではなく(“正当に”低く見ているのだ)、要は想像力の問題なのだ。
『リアル鬼ごっこ』を好きなことが悪いのではなく、それを己の嗜好として初対面の人間に見せつけることが問題なのである。
「大の大人が『リアル鬼ごっこ』を好きですと言ったとき、相手にどう思われるだろうか?」という自問をすれば、普通の人間は(たとえ好きだったとしても)「『リアル鬼ごっこ』が好きです」とは言えないはずだ。
「『リアル鬼ごっこ』がおもしろかったけどそう言うと子どもっぽいと思われるよなあ。ここは無難に、数年前に一度読んだだけの『司馬遼太郎』って言っておくか」という判断を働かすのが、大人である。
自分の発言・行動がどのような影響を及ぼすかを考えて行動しない人間は客商売に向いていない。だから採用しない。
(もし自問した末に言ったのだとしたら、常識が欠如していることになる。それはそれで仕事に向いていない)
どういう答えを示せばプラス評価になるのかというと、これは難しい。
強いて言うなら、担当者の好みと一致する答えだけだろう。これは答えがマニアックであればあるほどポイントが高い。
「古いんですけど……。大西巨人先生の作品はすべて読んでます」
「えぇ! ホントに!? すげー、大西巨人を好きな人、おれ以外ではじめて会ったよ」
「お好きなんですか? わあ、うれしいなあ」
「最近は古本屋にもなかなかなくてねえ」
「わかります。ぼく、源氏鶏太も好きなんですけど、なかなか手に入らなくて……」
「うそ!? 源氏鶏太も好きなの!? おれ全部持ってるから今度貸すよ!!」
こんなやりとりになれば採用される可能性も上がるだろうが、こんな奇跡はまず期待できない。「誰それ?」で終わりである。
下手をしたら、とりかえしのつかないダメージをこうむる可能性もある。
「好きな本ですか? 『ドグラ・マグラ』です」
なんてことを言ったら、
「『ドグラ・マグラ』を好きなのか。こいつぜったいヤバイやつだ」
と思われてしまう可能性も十二分にある。
なにしろ日本三大奇書の一だ。どんな考えを持っているかわかったものではない。
「『リアル鬼ごっこ』を好きです」のほうが、嗜好が中学生的ということが想像できるだけマシかもしれない。
マニアックな本も回答としてはふさわしくない。
ヘンに見栄を張って
「カントの『道徳形而上学原論』です」
なんて答えもやめておいたほうがいい。
「けっ、インテリ様が。ここはあなた様みたいな秀才くんが来るとこじゃねえよ」と思われるならまだいい方で、下手をしたらそこから3時間カントトークということもありえる。
だったらどんな答えがベストなのか。
結局のところ
「東野圭吾ですね。ガリレオシリーズとか」
ぐらいがいちばんいい。
つまんない結論だけどしょうがない。
そんなとこでポイント稼ごうなんて思っちゃいかん。
どうせ面接する側はほとんど「週何回入れるか」しか見てないんだから。
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by uso8000000
| 2010-11-25 16:38
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