大人は楽しい

新書の栄華と停滞

 3年ほど前から新書の敷居がぐっと下がり、それまでの「学問をはじめる人のための入門書」という位置づけから、「お手軽に知識を得られる啓蒙書」にシフトした。

 それ以前の新書というのはあくまで入門書であったので、たとえば哲学を学ぶ人は三木清『哲学入門』(岩波新書)を手に取り、大ざっぱな知識を得てからより高価でレベルの高い本へと挑んでいった。

 現在の新書は入口ではなく、1冊で完結する代物である。
 たとえば2008年最も売れた新書である坂東眞理子『女性の品格』(PHP新書)を読んだ人は、ほとんどがその後ジェンダー史の専門書などに手を伸ばすことはなく「こういう生き方をすればいいのね」といった感想を持ち、それでおしまいであった。


 この戦略転換が当たった。
 学問をやる人間にとっては眉をひそめたくなる現象かもしれないが、手軽に読めるもの、1冊で完結するものが売れるのは当然である。
 学問的価値は損なわれたが、新書は断然おもしろくなった。


 2005年の山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)、2006年の藤原正彦『国家の品格』(新潮新書)をはじめとして、次々に新書がベストセラーとなった。

 新書が商売になるとわかってからは、各出版社は、学ぶための新書よりも売るための新書に力を入れはじめた。
 ほんの十年ほど前までは岩波新書、中公新書(中央公論新社)、講談社新書の3つのレーベルがほとんどのシェアを占めていたのだ、2005年以降に新設された新書レーベルだけでも

・ソフトバンク新書(ソフトバンククリエイティブ)
・朝日新書(朝日新聞出版)
・ちくまプリマ―新書(筑摩書房)
・アスキー新書(アスキー・メディアワークス)
・学研新書(学習研究社)
・角川SSC新書(角川SSコミュニケーションズ)
・幻冬舎新書(幻冬舎)
・小学館101新書(小学館)
・祥伝社新書(祥伝社)
・PHPビジネス新書(PHP研究所)
・扶桑社新書(扶桑社)

など、10以上にものぼる。
 堅い内容の新書を出していた岩波、中公、講談社の3社も、岩波アクティブ新書、中公新書ラクレ、講談社現代新書といった、より専門的でない内容の新書レーベルを立ち上げた(岩波アクティブ新書は既に廃刊)。


 2006〜2007年頃にかけて新書の世界は本格的な戦国時代を迎え、次々と新刊が出版されては消えていった。
 だが、この群雄割拠時代も終息に向かいつつある。


 2007年のベストセラーTOP20(トーハン調べ)には、

 1位  坂東眞理子『女性の品格』(PHP新書)
 4位  飯倉晴武『日本人のしきたり』(青春新書)
11位  藤原正彦『国家の品格』(新潮新書)
17位  岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)
18位  福岡伸一『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)
19位  早坂 隆『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)

 6作の新書がランクインした。
 2008年のランキングでは、

 7位  坂東眞理子『女性の品格』(PHP新書)
 8位  坂東眞理子『親の品格』(PHP新書)
13位  姜尚中『悩む力』(集英社新書)

と、3作に半減。
 2009年上半期は

15位  姜尚中『悩む力』(集英社新書)
16位  五木寛之『人間の覚悟』(新潮新書)

 わずか2作がランクインするのみとなった。
 


 新書の発行点数は減っていない(むしろ増えている)から、各社の参入によって市場が飽和状態になりパイの奪い合いになっているのである。
 今年よく売れた新書を見ても、

・中村俊輔『察知力』(幻冬舎新書)
・小林よしのり『日本を貶めた10人の売国政治家』(幻冬舎新書)
・江夏豊・岡田彰布『なぜ阪神は勝てないのか?』(角川oneテーマ21)
・羽生善治『決断力』(角川oneテーマ21)

など、スポーツ、漫画、将棋などの世界で既に有名になっている人の本が目立つ。


 もう新書には、びっくりするようなヒットは生まれにくくなっている。
 新書市場は成熟してしまい、今後消滅することはないだろうが、しばらくは停滞、あるいは緩やかな下降カーブを描くことであろう。


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 で、ここから感情的な話になるんだけど。

 今、出版市場はどんどん縮小していっているが、その原因が新書の世界にはっきり現れている。

 去年『B型 自分の説明書』という本がヒットした後、類書(というかパクリ本)が次々に刊行された。

『「だから、B型だ」って言うな!』『 自分も知らないB型の正体 』『B型人間の頭の中』『B型—わたしの通信簿』『B型で悪いか!』『私、B型ですけど…何か?』『 愛されB型嫌われB型』『 B型女の取扱説明書』『血液型バイブル B型の事情』
 これらは、他社から出版されたパクリ本のほんの一部である。

 ひとつヒットが出ると、便乗本を出しておこぼれにあずかろうとする。新しい市場を開拓するよりも、ただ乗りするほうがはるかに楽だから。
 こんな業界に繁栄はないですよね。


 新書の世界というのはまさにその体質が濃厚に出ていて、ひとつヒットが出れば次々に模倣書が顕われる。
 以前『○○の品格』に関する記事を書きましたが、こんなのはほんの一例。

 今年売れた新書として名前を挙げた『察知力』『なぜ阪神は勝てないのか?』『決断力』なんてのも、知恵を絞っていない作りであることがタイトルを見ただけでわかります。

『○○力』とか『なぜ〜は…なのか』なんてタイトルのパターン、何年使っとんじゃい!
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by uso8000000 | 2009-10-20 21:25 | 本の周辺

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