大人は楽しい

よし君のこと(フィクション小説)

 暑くて寝苦しい夜に、気持ち悪い物語を思いつきました。
 ちょっとしたホラー。後味の悪い話なので、そういうのが嫌いな人は読まないほうがいいですよ。



 【よし君のこと】

 よし君は、団地の僕の家の真向かいの棟の、真向かいの部屋に住んでいた。幼稚園も一緒で、小学校に入ってからも同じクラス。僕とよし君はほんとにいい友達だった。二人で遊んでいるときは。
 よし君はいじめられっ子だった。幼稚園のときから体の大きい子にからかわれていたし、小学校に上がってからはクラスのみんなにいじめられていた。
 小学一年生のいじめなんて本当にかわいいものだ。みんなでよし君をはやしたて、よし君の大事なものを取り上げて、よし君が泣き出したら、取り上げたものを返して、それでおしまい。いじめといっても、僕たちにとっては遊びの延長でしかなかった。
 そう、僕もよし君をいじめる側だった。よし君とは仲が良かったし、嫌いだと思ったこともない。でも、みんなでいるときはよし君が泣き出すのが楽しくて、いじめの輪に加わっていた。僕がよし君の物を取り上げたりすることはなかったけど、それをされているよし君を見てはやしたて、みんなと一緒に笑っていた。
 でも、よし君と二人で遊んでいるときは、そんなことはしなかった。僕たちは親友だった。僕がよし君の家に行ったり、よし君が僕の家に来たりして、いつも晩ごはんの時間までめいっぱい遊んでいた。
 よし君と二人で遊んでいるときに、聞いてみたことがある。クラスのみんなにいじめられて、腹は立たないのかって。まるで自分がいじめていないみたいな聞き方で。
 よし君は、すごくむかつくよと答えた。あたりまえじゃないかと言いたそうに。
 僕はもう一つ聞いてみた。よし君の物を取り上げたり壊したりするやつらと、それを横で見ている僕と、どっちが憎いかって。
 よし君はちょっと考えてから、いじめられているときは僕のほうが憎らしいかもしれないと答えた。すぐに僕の顔を見て、あわてて「うっそー。いじめるやつらに決まってるじゃん」とおどけて答えてみせたが、僕にはその言葉が嘘だということがわかった。
 普段はよし君と仲良く遊んでいるくせに、みんながいじめだすと一緒になってはやしたてる僕を よし君が憎んでいるということは、なんとなくわかっていた。わかっていたからこそそんな質問をしたんだと思う。
 それからも、僕とよし君の関係は変わらなかった。僕はよし君にとって、二人で遊んでいるときは親友だったし、相変わらずクラスではいじめっ子の中の一人だった。

 夏休みの夜のことだった。暑くて眠れなかった僕は、ベランダに出て外を眺めていた。
 僕の家の真正面がちょうどよし君の部屋で、網戸越しに、机に向かっているよし君の姿が見えた。暑いので窓を開けて、カーテンも閉めていなかったのだ。
 はじめ、よし君は夏休みの宿題をしているのだろうと思った。でもすぐに、そうではないことに気づいた。よし君は鉛筆を、机の上に広げられたノートに向かって何度も何度も振り下ろしていた。何かをつぶやきながら、ひたすらノートを鉛筆で突き刺していた。
 僕はその日の昼間のことを思い出した。その日、学校のプールに行ったとき、みんなでよし君をいじめたのだった。着替えているときに誰かがよし君のバッグからパンツを取って、それをたらいまわしにしたあげく、女子が着替えている教室の前に投げ捨てたのだった。
 僕も、よし君に取り返されないようにパンツをパスして回す輪の中に加わったし、女子に「サイテー」と言われながら泣いてパンツを拾いに行くよし君の姿を見て大笑いした。
 きっとよし君はそのときのことを思い返して、腹立たしさをノートにぶつけていたのだろう。おそらくノートにはよし君をいじめたやつらの名前が書いてあるはずで、その中には当然僕の名前もあるはずだ。ひょっとしたら、一番上に一番大きな文字で僕の名前が書かれていたかもしれない。そのノートに向かってよし君は鉛筆を振り下ろし続けていた。口の動きが、「死ね、死ね、死ね……」というよし君の気持ちを伝えていた。
 その姿をぼんやりと見ながら、僕はちょっとしたいたずらを思いついた。ほんのささいないたずらだった。

 翌日。僕は家族で旅行に出かけることになっていた。二泊三日で隣の県まで海水浴に。ほんとは前日によし君にそのことを知らせるはずだったのだが、よし君はプールからの帰り道でも泣き止まず、みんなでそんなよし君をはやしたてながら帰ったので、結局言うことができなかったのだ。だからよし君は、僕が旅行に出かけることを知らなかった。
 その日の朝、僕は団地の駐輪場に止めてあったよし君の自転車のカゴに、紙切れを入れた。紙切れには、「よしくんにのろわれてころされた。うらんでやる」と書き、最後に自分の名前も書き加えた。怖がりなよし君のことだ、ひょっとしたら本当に僕が死んで幽霊になると思い込んで、夜中に一人でトイレに行けなくなってしまうかもしれない。そんな想像をして一人で笑いながら、僕は家族旅行へと出かけた。

 旅行から帰ってきた日の晩、よし君のお通夜がおこなわれた。
 よし君は僕が旅行に出かけた日の翌日、交通事故で死んだのだった。
 お通夜には、よし君を除くクラスの全員が来ていた。誰もが泣いていた。先頭に立ってよし君をいじめていたやつらも、僕と同じように泣いているよし君をはやしたてていたやつらも、よし君に向かって「サイテー」と言った女子も、みんな泣いていた。みんなのお母さんたちもやっぱり泣いていて、お通夜ではほとんど泣き声しか聞こえなかった。もちろん僕も、泣いた。
 お通夜からの帰り道、僕のお母さんが他の子のお母さんと一緒によし君の話をしていた。よし君は、赤信号を無視して車道に飛び出し、トラックにはねられたのだという。目撃者の話によると、よし君は特に急いでいた様子もないのに、突然ふらっとトラックの前に飛び出したらしい。まるでわざと身を投げたかのようだったという。
 その話を聞いたとき僕は直感した。よし君は自らを裁いたのだ、と。
 僕は、よし君の自転車に入れた紙切れのことを思い出していた。あの紙切れを見つけたよし君はどうしただろう。おそらく、僕の家に来たはずだ。しかし、何度インターフォンを鳴らしても誰も出ない。よし君は思ったにちがいない、僕が本当に死んでしまったのだと。自分が呪い殺してしまったのだと。ノートに書いた僕の名前を突き刺しながらつぶやいた「死ね、死ね、死ね……」。あの言葉が現実になってしまったとよし君は思い込んだのだ。
 僕を殺してしまったと思い込んだよし君は、きっと後悔したことだろう。本当に死んでほしいだなんて思っていなかったのに、殺してしまった。自分の呪いで。
 小学生の悩みなんて、その程度のものだ。現実と空想がこんがらがって、空想に追い詰められてしまう。大人から見たらばかげたことでも、よし君は真剣に悩んだにちがいない。そして、罪を償うために、自らを裁いた。
 そんな考えこそ、それこそばかげた空想かもしれない。ただ偶然、僕があの紙切れを自転車に入れた次の日に、よし君が交通事故に遭っただけのことかもしれない。ひょっとしたらあの紙切れは風に飛ばされて、よし君の目に入ることすらなかったかもしれない。
 それでも僕は思った。よし君の中で、よし君は僕を殺し、そして殺人を犯した自らを裁いたのだと。

 大人になった今でも思う。よし君の死は、罪の意識にさいなまれたよし君が自ら選び取ったものだったと。
 そして、僕のほんのささいないたずらが、結果的によし君を殺したのだと。
 僕を殺したよし君は、トラックに身を投げ出して自らを裁いた。
 だとすると、よし君を殺した僕は、誰によって裁かれるのだろう?
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by uso8000000 | 2006-08-13 02:59 | ネタ

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