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進化の存在証明

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リチャード・ドーキンス 『進化の存在証明』 (早川書房)



 ドーキンスの『利己的な遺伝子』は文句無しにおもしろかった。
 我々は遺伝子の乗り物に過ぎないという証拠を次々につきつけられ、「はい。わたくしは遺伝子の奴隷でございます」と地に這いつくばった。世界が裏返ってしまったような感覚に襲われた。


 で、この『進化の存在証明』。
 ダーウィンの進化論(ドーキンスに言わせると、それは"論"ではなく決定事項である)が正しいことを、手を替え品を替え証明した本。

 しかし……。なぜ今進化論なのか?
 その正しさを証明なんかしなくても、小学生でもヒトがサルから進化した(正確にはサルのようなもの)ことは知ってると思うけど……。


 と思うのは日本人だからであって、他の国ではそうでもないらしいのだ。

 この本の巻末資料によると、
2008年にアメリカでおこなわれた世論調査によると、

1.「神は人類を、現在と非常によく似た姿で、ここ一万年ばかりのうちにいっぺんに創造した」
と信じている人が44%もいるのだそうだ。

2.「人類は原始的な生物から進化してきたが、この過程は神によって導かれた」
は36%、

3.「人類は原始的な生物から進化してきたが、この過程に神はかかわらなかった」
は14%にとどまっている。


 アメリカが特異なのかというとそうでもなく、また別の調査によれば
「人類は、それ以前の動物種から進化してきた」と考えている人は、イギリスで79%、ドイツで69%、トルコでは27%しかいない。

 アメリカでは「神が人類を創造した」と教えている学校もあるそうなので、ドーキンスがこういう本を書く必要があったのだろう。
 しかし、日本で「神が人類を創造したのではない! 長い年月をかけて進化したのだ!」と声高に唱えたところで、「はあそうですよね」という反応しか得られないのではなかろうか。
 個々の証拠は至極おもしろいのだが、全体のテーマが自明のことなので、全体を通じては「それはもう知ってるんで」という感想しかない。
 日本語に翻訳して出版する必要があったのだろうか。
 SFとミステリの早川書房から刊行されたのは、学術系出版社が相手にしなかったからじゃないのかな。




 おもしろかったこと。覚え書き。


・野性のキツネの中から人なつっこい個体だけを選抜して配合していくと、どんどん人なつっこい子孫が生まれるようになる。
 彼らがイヌのような振る舞いをするのは当然のことだが、なんと人なつっこいキツネは外見もどんどん犬に似てくる。


・「たったの数百万年で、単純な細胞から人類にまで進化するなんてことはありえません!」
 「しかしあなたも私も、たったの9ヶ月でそれをやりとげたのですよ」


・ダチョウやキウイは、飛び方を忘れてしまった鳥である。
 そしてカカポは「飛び方を忘れてしまった」ことを忘れてしまった鳥である。彼らは身の危険を感じると、高い所からとびたち、そして不格好に地面に落ちる。


・人類はサルから進化したのではない。
「人類とサルの共通祖先は、人類よりサルに似ていた」
 これは、あらゆる2種の動物(あるいは植物、菌類、細菌)について言える。


・人間の足は、ウマの足よりも原始的である(人類とウマの共通祖先は五本の指を持っていた。したがって、ウマのほうがより大きな変化をとげた)。
 これらからわかるように、○○は□□よりも賢い(あるいは複雑だ、生き残ることに優れている、高等だ)といった表現は誤りである。


・カバは、ブタやウシよりもクジラのほうに近縁である。
 クジラは陸に上がった後に再び海の中に戻っていったのだ。
 海→陸→海→陸 という移動をしたのがリクガメ。


・翼竜(プテロダクティル)の翼は、薬指一本で支えられている。
 トビトカゲの翼は、肋骨によって支えられている。
 ウマの蹄は、人間の中指の爪と相同。
 ある哺乳類には存在するがべつの哺乳類には存在しない、という骨はない(退化してほとんどなくなっているものはある)。ある哺乳類の部位は、必ずべつの哺乳類のどこかに対応している。


・魚は尾を左右に動かす。トカゲやヘビなどの爬虫類も背骨を左右に動かして進む。彼らは陸の上を「泳いでいる」といえる。
 哺乳類は背骨を上下(直立歩行する哺乳類は前後)に動かす。イルカは尾を上下に動かす。彼らは水中を「走っている」といえる。


・どんな飛行機械にも安定性と操縦性の間にはトレード・オフがある。安定性を優先させれば操縦性が損なわれ、操縦性を重視すれば安定性が失われる。
 飛翔動物は進化するにつれて、操縦性を増大させ、失われた安定性の代わりに計測器官と計算能力(つまり脳の力)を増大させてきた。


・人間の眼は、網膜の中心部でだけ高性能を達成している。
 私たちがある風景を見ていくとき、中心部がさまざまな部分に当たるように動かしていき、それぞれを個別に最高度の細密さと正確さで見ていく。
 そして脳の画像編集ソフトが、私たちが場面全体を同じ正確さで見ていると思わせるようにあざむく。


・キリンの回帰性咽頭神経は、のどを出発して、心臓のあたりを経由して、脳に到達する。
 のどから一直線に脳に走るよりも、数メートルも無駄に伸びていることになる。
 神経がからまったまま、首が伸びてしまったのだ。これこそが、生物が少しずつ進化してきた証拠である。
 コアラの育児嚢は、口が下に向いている。これは、木にしがみついて過ごす動物にはふさわしくない。
 コアラはウォンバットのような、地面に穴を掘る生物から進化した。穴を掘る生物にとっては育児嚢の口は下向きについていたほうが都合がよい(そうしないと赤ん坊が土まみれになってしまうから)。コアラの育児嚢も、進化の遺産である。


・私たちは動物を外側から見るとき、設計という優雅な幻想に圧倒的な印象を受ける。
 しかし内側から見たとき、印象は正反対になる。あらゆる動物は「その場しのぎで切れ端を寄せ集めてつくったパッチワーク」でしかないのである。


・自然は、DNAの生き残りに影響をおよぼさないかぎり、苦しみには関心がない。
 死ぬときに苦しみをやわらげるような遺伝子は、自然淘汰に何の影響も及ぼさない。したがって、そのような遺伝子が後々の子孫まで受け継がれていく可能性は低い。


・ウイルスも人間も、暗号化された指示によってつくられており、その指示の究極的なメッセージは、コンピューター・ウイルスと同じく「私を複製せよ」なのである。
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by uso8000000 | 2010-10-08 17:59 | 本の周辺

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