大人は楽しい

教育テレビ 「テツガクはっけん!」第31話

 日常に転がっているテツガクを探しに、今日もコスモくんとテツガくんは街に出かけた。
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 コスモくんというのはニックネームのようだけど本名である。
 両親が持つ、中学生のときから道を踏み外したままのセンスによって「宇宙」と書いて「コスモ」と読むというかわいそうな名前をつけられてしまったかわいそうな小学三年生だ。
 小学三年生にもなると、そろそろ自分が名乗った時に大人たちが霊柩車を見たときのようにあわてて親指を隠すことにも感づきはじめたけど、コスモくんは気がつかなかったふりをする。コスモくんのおとうさんとおかあさんは今でも、「宇宙(こすも)」が独創的で斬新でかっちょいい名前だと信じてやまない。コスモくんが自分の名前を恥ずかしがったら、せっかくかっちょいいと思って名前を付けてくれたおとうさんとおかあさんに悪い気がする。
 もっともそんなコスモくんも「何でこんな名前をつけたんだ!」とおかあさんに向かってみかんの皮を投げつけるようになるのだが、それは今から五年ほど先の話だ。
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 クラスの男子たちは「コスモ」とは呼ばずに、「こすも」をひっくりかえして「もっこす」と呼ぶ。
 コスモくんははじめはその呼ばれ方に抵抗を感じていた。なぜって、コスモくんは熊本出身じゃないのに、それじゃまるで熊本男児みたいだからだ。けれど今ではすっかり慣れた。
 だけどクラスでいちばん車輪の大きな自転車に乗っている芝草に「もっこりもっこす」と呼ばれたときだけは腹を立てる。なぜって芝草はわざと女子の前でそんな恥ずべき名前で呼ぶからだ。


 クラスのみんなは「もっこす」と呼ぶけど、テツガくんだけはきちんと「コスモくん」と呼ぶ。
 なぜなら「テツガクはっけん!」を作っている教育テレビの現場監督の大沢さんが「コスモくんって呼ぼうか。もっこすくんって呼んだら熊本出身みたいだろ。コスモくんは熊本出身じゃないのに」と言ったからだ。それを聞いたとき、コスモくんは「この監督とはうまくやっていける」と確信した。そしてその直感はおおむね当たっている。
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(監督の大沢さん)

 テツガくんはコスモくんと同じクラスの子ではない。同じ学校でもない。というかテツガくんは人間じゃない。指人形だ。
 教育テレビで水曜10:45から放送中の『テツガクはっけん!』のメインキャラクターである。
 一応コスモくんと同じ小学三年生という設定になっているが、テツガくんはヒゲも生えているし眉毛もすごく濃いし(どっちかといったらテツガくんのほうが熊本出身っぽい)、おまけに早稲田の学生みたいな四角い帽子をかぶっている。マスオさんが早稲田大学卒業時にかぶっていた、あの帽子である。
 設定上は「小学三年生にして、束京大学文学部哲学科を首席で卒業した」ということになっている。
 「東京大学」ではなく「束京大学」になっているところがユーモアなんだ、と監督の大沢さんが教えてくれた。
 テツガくんは、正確には「手塚テツガ」という名前である。大沢さんはこれも「ユーモアが利いているだろう」というのだが、コスモくんにはただのだじゃれにしか思えない。けれど大沢さんとの良好な関係を壊したくなかったので「あー……。あはは……」と笑っておいた。


 テツガくんは、そのくどいぐらいにインテリジェンスを強調したビジュアルと持ち前の理屈っぽさのせいで、教育テレビの中でも一、二を争う不人気キャラである。

 ちなみに不人気両雄のもう一方の峰に立つのが、『ハロー你好こんにちは』にレギュラー出演中の挨拶強要サル、チャースくんだ。
 なにしろチャースくんときたら、目上の人や国会議員のセンセイに向かって「チャース!チャース!」と野球部風の挨拶をくりかえすのだ。子どもからはうっとうしがられるし、お母様方からは「きちんとした挨拶ができないキャラ。しかも猿」というレッテルを貼られるのも無理はない。
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 話がそれてしまった。コスモくんとテツガくんの探検の話である。
 交差点にさしかかったふたり。目の前の信号は赤だが、横から車が来ている気配はない。
「まあいいや、渡っちゃえ!」
 勢いよく交差点に飛び出したコスモくん。

 ピリピリピリィィ!

 そこに現れたのは、みんなの暮らしを守るおまわりさん。
 あれあれ。おまわりさん、エロDVDを借りてかえったらケースの中に『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のディスクが入ってたときのようにおっかない形相をしているよ。
 
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「こらこら。赤信号なのに横断歩道を渡ったらだめじゃないか」
「え〜。だけど車も来ていないし、大丈夫だよ」
「そうであってもルールはルール。赤は止まれ。これは守らなきゃだめだよ」
 コスモくんの弁明には耳を貸そうとはせず、おまわりさんは立ち去ってしまった。
 悔しさを痰にこめて道ばたに吐き出したコスモくんだけど、まだ釈然としない気持ちはおさまらない。

「ねえ、テツガくん」
 コスモくんは、自分も信号無視をしようとしていたくせにおまわりさんが近づいてきた途端にあわてて歩道に戻ってひとりだけ説教を免れたテツガくんに話しかける。
「どうしてどんなときでもルールを守らないといけないのかな」

 するとテツガくんはにっこり微笑んだ。
 待ってました。テツガくんの大好物、テツガクの質問だ。


「テツガクはっけーーーーーん!」


 出ましたー! テツガくんの決めゼリフその1。

「なるほど。誰にも迷惑をかけなくてもルールを守らないといけないのか。ここにはテツガクの種がありそうだね」

 テツガくんは早稲田の学生みたいな四角い帽子を脱いで、頭の本をぱらぱらとめくりはじめた。
 言い忘れていたけど、テツガくんは頭部がぶあつい本になっている。『ピタゴラスイッチ』のひゃっかおじさんみたいな感じだ。ジョジョを好きな人にわかりやすいように説明すると、岸辺露伴のヘブンズ・ドアーによって顔を本にされてしまったときの康一くんみたいな感じだ。
 テツガくんの頭部の本にはありとあらゆる哲学の答えが書いてある、というのが公式の設定だ。
「人はなぜ生きるのか」なんていう質問に対する明確な答えも、そこには書いてあるらしい。
 教育テレビの中ではチャースくんと並んで一、二を争う不人気キャラだけど、テツガくんはすごいのだ。


「さっきみたいに誰もいないのにルールを破った場合。これは果たしてルールを破ったと言えるのだろうか。まずはそこから考えていこう。知覚がなければ現象はないという考え方がある。これを提唱したのはジョージ・バークリーで、彼が言うには『エッセ・イス・ペルキピ』、つまり存在することは知覚されることという意味で……」
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 テツガくんが説明をはじめてまだ一分しか経っていないというのに、もうコスモくんは眠たくなってきた。
 なにしろテツガくんのテツガク話は、爆発的につまらないのだ。わかりやすいたとえ話みたいなのはひとつもないし、半分ぐらいは自分が知っている知識をひけらかしているだけなのでとにかく鼻につく。もしテツガくんが合コンに参加したなら、テツガくんはもちろんのことその場にいた男全員が女の子から嫌われるレベルのつまらなさだ。

 最近ではテツガくんが「テツガクはっけーーーーーん!」と言ったあたりからもう眠気が襲ってくる。
 これはどういうわけだろうと思ってコスモくんは、『なぜ!?なに!?みんなの理科』に出演している西園須(さいえんす)博士に相談してみたことがある。

「それはね。条件反射ってやつだ」
 西園須博士はおちついた声で言った。
「犬にベルの音を聞かせてからエサを与える。これを何度もくりかえしていると、犬はベルの音を聞いただけでエサをもらえると思ってよだれをたらすようになる。これが条件反射だ。コスモくんの場合もこれと同じだね」
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 テツガくんとはくらべものにならないぐらい、簡潔でわかりやすい説明だ。

 コスモくんは将来大学に行って、そういう分野の研究をしたいと思った。
 けれどもそれを口にしたらテツガくんがエロDVDを借りてかえったらケースの中に『2001年宇宙の旅』が入ってたときのように頭から火を噴いて怒るのがわかっているから、決して言わない。
 テツガくんは小学三年生という設定なのに、テツガくんの声を担当している鈴木さんが毎日仕事帰りにエロDVDを借りていることも知っているが、それも口には出さない。コスモくんはネーミングセンスがジャガイモの両親から生まれたのに、けっこうTPOをわきまえた行動がとれるのである。


 コスモくんが目を開けると、テツガくんはまだ説明を続けていた。
 コスモくんは立ったまま寝ていたのだ。近頃じゃこんな器用なことまでできるようになった。

「この考え方が正しいと思うかい? だけど、はたしてそんなふうに言い切っちゃってもいいものだろうかな、って疑問に思うな。これはあくまでも僕の個人的な考えだけどちょと聞いてくれるかい」

 出ましたー! テツガくんの決めゼリフその2。
 決めゼリフとしては長ったらしい上に、とにかくまわりくどくてほとんど内容がないのだが、とにかくテツガくんはこの言い回しが好きだ。これまで最高で三十分に四回言ったことがある。

「シュレディンガーの猫という思考実験があって、これはつまり量子力学的な考え方なんだけど……」
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 『テツガクはっけん!』の放送時間はもうまもなく終わろうとしていたが、テツガくんの説明はまだまだ終わりそうになかった。
 大道具係の人たちが、すでに次の番組『ハロー你好こんにちは』の準備をはじめていた。
「チャース!」という甲高い叫び声が聞こえてきた。
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by uso8000000 | 2010-01-26 21:05 | ネタ

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